東京高等裁判所 昭和47年(ネ)483号 判決
民法第五六八条および同条により準用される同法第五六一条(以下単に民法第五六八条という。)は、強制競売の場合にかぎらず、任意競売の場合、例えば、抵当権設定者がその意思に基づき抵当権を設定したにかかわらず、たまたま目的物件が設定者の所有でなかったため、右抵当権の実行によって競落人となった者がその所有権を取得しえないような場合にも、その準用があるものと解されるのであるが(この場合には、抵当権設定者が同条にいう「債務者」に当たるものと解される。)本件においては根抵当権設定者とされている松田よ志に無断でその意思に基づかないで根抵当権の設定が行なわれている点で、右の場合とは、趣きを異にするものがあり、かような場合についても、民法第五六八条が準用されるかどうかについては、一考を要するところである。しかし、抵当権設定者とされている者の意思に基づかないでその所有物件につき設定された抵当権に基づき任意競売が行なわれた場合は、所有者に無断で債務者の所有名義とされた物件に対し強制競売が行なわれた場合、またはこのような物件につき債務者の設定した抵当権に基づき任意競売が行なわれた場合と民法第五六八条の適用上区別すべき理由はないと考えられるので、本件のような場合についても民法五六八条の準用があるものと解するのが相当である。ただ、前認定の事実関係によれば、よ志は、根抵当権を設定する意思も、債務を負担する意思も、なかったことは明らかであるから、同条の適用上、よ志を同条にいう「債務者」に当たるものと解する余地はなく、よ志に無断で根抵当権を設定した謙夫および同人と共に連帯債務を負担する大竹司朗、駿河電機工業株式会社の三名がそこにいう「債務者」に該当するものと解すべきである。
成立に争いのない甲第七号証同第八号証の各一および二、原審ならびに当審証人岩田孝吉の証言によると、控訴人が昭和四六年五月八日付同月一〇日到達の書面で松田謙夫に対し、昭和四七年三月二九日付同月三〇日到達の書面で駿河電機工業株式会社に対し、同年三月三一日付翌四月一日到達の書面で大竹司朗に対し、それぞれ、前記競売手続による本件建物の売買契約を解除する旨の意思表示をしたこと、および右三名はいずれも無資力の者であることが認められ、他に右認定を左右し得る証拠はない。
控訴人は、民法第四三四条を根拠として、連帯債務者の一人に対する契約解除の意思表示は、債務者全員につきその効力を生ずると主張する。
しかし、同条によれば、連帯債務者の一人に対する履行の催告は、連帯債務者の全員を履行遅滞に陥いれる効力を有するものであることは明らかであるが、同条は履行遅滞に陥いった連帯債務者らに契約解除の意思表示をするについて、そのうちの一人にこれをなせば足りるとの趣旨までをも定めたものと解することは困難であり、契約解除の意思表示をなすについては、民法第五四五条の原則が適用になるものと解さざるをえないので、この点に関する控訴人の主張は採用できない。したがって、民法第五六八条適用の関係において、前記三名が競売目的物件の売主に準ずる立場において連帯債務を負うものと解しても、控訴人の主張するように、そのうちの一人である松留謙夫に対し契約解除の意思表示をすることにより、すでにその時点において三名の全員につき解除の効果が生じたとすることのできないことはいうまでもない。
してみると、民法第五六八条に基づく契約解除の意思表示は、前記三名の全員に対しこれをなさねばならないこととなるが、前認定のように、この意思表示が各自に対し個別に時を異にして行なわれている本件においては、解除の効力は、最後の意思表示と共に生ずるものと解すべきであるから、本件建物につき競売手続により成立したものとされる売買契約に準ずる関係は、前記認定の大竹司朗に対する契約解除の意思表示が到達した昭和四七年四月一日に解除されたものということができる。
(白石 杉山 川上)